――12月22日。
2学期も今日で終わりだ。
明日から冬休み、更にクリスマスも目前とあって、みんな浮き足立っている。
だけど、昨日失恋してしまったばかりの私には、冬休みもクリスマスも、どうでもいいものでしかなかった。
何をして過ごしたいとか、そんなことを考えるような心の余裕があるわけがない。
むしろ、柳君があの子と過ごすんじゃないかと思うと、それだけで胸が締め付けられる思いがして、泣きたくなった。
落ち込んでいる私の様子は、否応なく周りの友達にも伝わったようだ。
何かあったのかと問い掛けられる回数は、片手では足りないくらいで、みんなの心遣いが暖かかった。
失恋したのだとは言えなかったけれど、みんなに心配させたことを申し訳なく思いながらも、どこかちょっとだけ救われた気分になった。
たいして良くもない通知表を受け取り、諸注意や連絡を聞いて、終業式は終わりを告げた。
まだ騒いだりする気にはなれなかったので、友達からの遊びの誘いを全部断って、わき目も振らず下足室へと降りる。
すると。
帰宅する生徒たちでごった返している下足室で、柳君の姿を見つけてしまい、私は足を止めた。
こんなに混んでいるのに柳君の姿だけが一瞬で判ってしまうのは、きっと彼が他の人よりも少し背が高いからだけじゃないだろうな――なんてそんなことを思いつつ、私は彼が下足室から消えるのを待った。
……まだ、彼と平気な顔で話せる気がしなかったから。
しかし、都合の悪いことに、彼の方が私を見つけてしまったようだ。
目が合った瞬間、彼が私の名を呼んだ。
「!」
「あ、柳君。偶然だね」
さも今気づいたかのように返事をすると、近づいて来る彼の方に、ゆっくりと歩み寄った。
……視線を合わせることはできなかったけど。
「昨日はごめんね。せっかく私のこと心配して探しに来てくれたのに、先帰っちゃって」
「ああ、そんなことはいい。お前の身体の調子に気づけなくて悪かった。身体は大丈夫なのか?」
だから、なんでそんなに優しいの?
お願いだから、これ以上好きになるようなこと言わないでよ……もう。
「あ、う、うん……まだちょっと調子悪いから、もう帰るね。バイバイ」
そう言って、私は心配してくれた彼と目も合わせずに歩みを進めた。
これ以上、彼と話していたら、やっぱり泣きそうになってしまう。
下足室で靴を履き替えて、私は柳君から逃げるように走りだした。
多分、彼にも避けてるのが伝わったと思う。
心配してくれた彼に、あんな態度で返してしまうなんて……私最悪だ。
失恋したのなんて私の勝手な都合で、彼には何の関係も無いのに。
自分で自分が情けなくなって、走るスピードを上げようとしたその時。
強い力が、私の手首を引いた。
「!」
名前を呼ばれて、振り向いた私の目に映ったのは――彼。
「……送るよ」
走って追いかけて来てくれたのだろう、彼の肩が僅かに上下していた。
腕から彼の熱が伝わってきて、心臓が一気に爆発した。
顔が熱い。自分でも、どんどん真っ赤になっていくのが判る。
――やだ、彼に気づかれる!!
そう思った瞬間、私は全力で彼の腕を振り払った。
「ご、ごめん、1人で帰れるから」
そう言って、彼を振りきるように私は走った。
3日前なら、送ってくれると言った彼の言葉を、心から喜んだだろう。
でも、彼に好きな子がいると判った以上、あたたかで力強い手の感触も、心配して言ってくれた優しい言葉も、今の私には全て猛毒でしかなかった。
なんとか堪えられていた涙は、家に着いて部屋に飛び込んだ瞬間、ぶわっと一気に溢れ出してきた。
明日から冬休みで良かった。
休みが明ける頃には、癒されていますように――それだけを願って、私はひたすら泣いた。
――12月23日。
1夜明けても、相変わらず何もする気力はなかった。
家族の前ではなんとか虚勢を張って笑顔を作るけど、部屋に戻って1人になると一気に悲しみに支配されてしまう。
かと言って外へ出る元気もないし、結局は自室のベッドに潜り込んで時間がただ過ぎるのを待ち、それで1日は終わってしまった。