世話の焼ける先輩と面倒見のいい後輩の話

今、俺はクリスマスムード溢れる駅前の道を歩いている。
俺こういうお祭りムードとか大好きだし、目的もなくただぶらぶらするだけでも好きなんだけどさ。
今の俺は、そのムードを楽しむっつーより……なんつーか、「オレ、何してんだろ?」と思う気持ちの方が強い。
なんでかって言ったら、一緒に歩いているのが、何故か――あの、真田元副部長だからだ。

「赤也、お前に頼みがある。にクリスマスプレゼントを買いたいんだ。助言してくれ」

そう電話で頼まれたのは昨日の夜の話だ。
いきなり真田先輩から電話があったときは一体何を怒られるんだと思ったけど、まさかこんな願いだとはなあ……。
正直あの真田先輩と休みの日に出かけるとかカンベンしてもらいたかったけど、まあ、今回はしゃーねーかと諦めた。
の方もイブのことで悩んでたのも知ってるしな、あの後真田先輩と会えることになったって嬉しそうに報告しにきたのこと思い出したら、この世話焼かせるカップル、もーちょっと手伝ってやってもいいかなって気になったんだ。
まあ、なんつーか通りかかった船っつーの?
……ん? なんか違う気がすんな。ま、いいや。
とにかく、そんなわけでせっかくのイブ直前の休日だけど、俺は真田先輩に付き合って街に出ることになったわけだ。
ついでに俺もへのプレゼント、買いたかったしな。

オレは横目でちらりと真田先輩を見る。
先輩は、落ち着かないようにきょろきょろ辺りを見回しながら、オレの隣を歩いていた。
まさか、部活の用事とか以外でこの人と買い物に行く日が来るとはなあ……

「……赤也、今は一体どこに向かっているんだ?」
「とりあえずデパートっすかね」
「そ、そうか。デパートか、成程」

普段の真田先輩からは想像も出来ない、なんかものすっげー情けない声だった。
思わずぷっと吹き出しそうになるのを堪えながら、オレは言う。

「やっぱ女子にプレゼントすんならぬいぐるみとかアクセとか、そーゆーもんがいいと思いますよ。俺もへのプレゼントはその辺りにしようと思ってるっす」
「お前もへプレゼントを買うのか」
「勿論っす。せっかくのクリスマスだし、喜ばせてやりたいじゃないっすか」
「う、うむ、そうだな。あいつの喜ぶ顔を見られるなら……」
「ま、のことだから、先輩からのプレゼントなら参考書とかでも喜ぶんじゃないっすかあ?」

そう言いながら、俺は去年の誕生日に副部長から貰った参考書のことを思い出す。
あれを真顔で渡された時は、俺はこの人の脳がどうなってるのか本気で疑った。
しかもその後で袋すら開けていないのがバレてつきっきりでやらされたことも加えて、正直忘れたい記憶だったりする。

「ふむ、参考書も考えるには考えたんだが、クリスマスのプレゼントに参考書というのは、まるで年末まで勉強しろと言っているようだからな……それは少し可哀想なのではないかと思うのだ」

……誕生日にまで勉強しろと言われた去年の俺は可哀想じゃないのかね。
ていうか一度は考えたのかよ!

喉の手前まで出かかったそんな言葉を飲み込んで、代わりに呆れた笑いが口から漏れる。

「ま……クリスマスに参考書はやめといた方がいいと思うっす」
「うむ、参考書などクリスマスでなくても、いつでも構わんからな」

どこかずれたこの人の言葉を無視して、俺はそのままデパートへと足を向けた。



やがて、クリスマス前で人がごったがえしているデパートに到着した。
中に入り、館内案内の前で足を止めながら、先輩に尋ねる。

「先輩、少しは目星とかつけてるんすか」
「そんなものがついているくらいなら、お前に頭を下げたりなどすると思うか?全くわからんからお前に頼んでいるのではないか」

……まあ、そうだわな。
しっかし、なんでこの人こんな偉そうなんだ。
本当に昔から無駄に高圧的というか、堅いと言うか……。

「……それが人に物を頼む態度なんすか?」

ちょっとむかついたから、挑発的に俺は言う。
すると、真田先輩の眉がぴくっと動いた。
けど、俺は気にせずに言葉を続ける。

「いいんすよ、俺、帰っても。せーぜー自分で変なもん選んでに苦笑でも幻滅でもされればいいじゃないっすか」

俺の言葉に真田先輩の眉がまたぴくぴくと動いた。
言い返してこないとこ見ると、結構効いてるらしい。
うわ、俺珍しくこの人より優位に立ってんじゃねえ?
そんなことを思って内心ほくそえんでいると――

「……すまん、そうだな。俺が悪かった」

そんな真田先輩の声が聞こえた。
うわ、べ、別にこんな風に謝って欲しいわけじゃねえって!
やり過ぎちまったかな……。

「や、い、いいんすよ! わかってくれたら!」

この人にこんなこといわれたら、調子狂うっつーの!

「と、とにかく、女子へのプレゼントなら、さっきも言いましたけどぬいぐるみとかアクセサリーとかが良いと思うんスよ! 今ちょうどクリスマスプレゼントの特設会場出来てるみたいですし、そこに行けば集まってて手っ取り早いと思うんス!」
「そ、そうか。ならば、そうしよう」

真田先輩が頷いたのを確認して、俺は近くのエスカレーターに飛び乗り、特設会場のある階に向かった。

やがて、特設会場のある6階に着いた。
さすがに明日がイブということもあって、会場の中は今までの階よりもずっと人が多い。

「すごい人だな」
「そうっすね。皆俺らみたいに明日のためにプレゼント買いに来てんだと思いますよ」
「……そ、そうかもしれんな」

少し気後れしてるのか、真田先輩の声が落ち着かない感じだ。
ほんと、テニスん時と違い過ぎ。

「とりあえず、そこにぬいぐるみあるから見てみますか」
「う、うむ」

そう言って、俺は真田先輩と一緒にぬいぐるみが並んでいる売り場の前に立った。
クマとかうさぎとか猫とか犬とか、いっぱいあんなー。
正統派で行くなら、この辺りなんだろうけどな……これじゃつまんねーよな。
どーせなら、爬虫類とか面白くて俺は好きだけどな。
俺は、端の方にあったヘビの身体をつかんで持ち上げた。
お、これ見かけによらず手触りいいじゃん。
にこれやろっかなー。

むにむにとヘビの手触りを楽しみながら、俺は真田先輩の方を見る。
するとその途端目に入ってきたのは――サンタの格好したクマのぬいぐるみを片手に持ち上げながら、難しい顔をしてる先輩の姿。

……正直、異様どころの話じゃねえ、とか思ってると――次の瞬間、真田先輩の顔が緩んだ。
うわ。
これはこれで怖い。

ほんと、これがあの鬼の真田副部長とか言われた先輩の姿かよ。
と会う前の真田先輩は、いっつもいっつもムッとした顔ばっかで、眉間に皺が寄ってて、にこりともしなかったつーのに。
……まあ、幸村先輩のこととかもあったから、笑うような余裕なんかなかったのかもしんねーけど。
幸村先輩の抜けた穴を埋めるために、誰よりも気を張ってたのはこの人だったもんな。
それに、せっかくうまくいった直後に関東大会であんなことがあったりして、この二人、本当にいろいろあったしな……。

そう思うと、今の真田先輩の姿は前よりも悪くねーかもしれねえ、とちょっとだけ思った。

「先輩、それにするんすか?」
「うむ……悪くはないと思うのだが、まだ悩んでいる最中だ」

真田先輩の顔が、また難しそうな顔つきになる。

、そーゆーの好きだと思いますよ」
「うむ、確かにはこういった可愛らしいものを好みそうではあるんだがな……」

そんなことを呟きながら、先輩はしばらくじっとクマのぬいぐるみを見つめていたけど――やがて大きな息を吐いて、売り場に戻した。

「やめるんすか?」
「うむ。……あいつは最近、子ども扱いすると妙に口を尖らせるのだ。ぬいぐるみだと、また子ども扱いされたと思われないだろうかと思ってな」

真田先輩はそう言って苦笑した。
あー、まあ、それはなんか判る気がする。
なまじ真田先輩が老け――もとい、大人過ぎるから、あいつ少し自分が子どもっぽいの気にしてんだよな。

「でもまあ、マジで子どもっぽいじゃないすか。ぬいぐるみ喜ぶと思いますよ」
「……否定はせんが、お前がのことをどうこう言うのはあまりいい気がせんぞ」

そう言って、ぎろっと睨まれた。 おいおい、この程度でいい気しねぇって……この人結構独占欲強いんだな……。

「そ、そうっすね、じゃあ、アクセとかにしときます?」
「そうだな」

真田先輩が頷くのを聞いて、俺は隣のアクセ売り場に移動した。
しっかし、アクセだとぬいぐるみよりも更に選択肢が増えるんだけど、先輩大丈夫なんかね。

「さて、どうしますかね?」
「……う、うむ」

……あ、やっぱり駄目そーだ。
目が泳いでら。

「先輩、あんま難しく考えなくていいと思いますよ」
「い、いや、難しく考えているつもりはないんだが、これだけあると、何がいいのかわからんのだ」

情けない声で、先輩が言う。
……しゃーねーな。
ほんと、このカップルどっちも世話焼かせやがる。

「要は、アクセって女の子をもっと可愛くするための飾りなんすから。真田先輩ががつけたらもっと可愛くなるなって思うのをあげたらいいんすよ」

俺の言葉に、真田先輩は一瞬表情を止めた。
そんな先輩に、俺は続けて助言をする。

「あとは……まあ、サイズ関係ないようなのがいいと思いますけどね。リングとかはサイズ違ったら困るから、ヘアアクセとかイヤリングとかペンダントとかが無難じゃないですか」

そう言って、俺は近くにあったイヤリングを手に取った。
その途端、イヤリングに着いていたハートが揺れる。
こういうの、似合いそうだよなー。

「俺だったら、こーゆーのに似合いそうだと思うんすよね。着けたところとか想像してみながら、選んだらいいと思うっすよ」

「そう……だな。ふむ」

照れたような表情で頷いて、真田先輩が辺りを見渡し始めた。
ひとつひとつ手に取り、じっと何かを考えては顔を真っ赤に染める。
が着けている姿を、ひとつひとつ想像しているんだろう。

こないだのに見せてやりたいな。
迷惑がられるのを怖がって、会いたいってことすら素直に言えない、あの馬鹿に。
こんなに一生懸命お前へのプレゼント選んでる人が、お前のこと迷惑がるわけねーっつーのな。

そんなことを思って笑っていたその時、真田先輩がくるりと振り返った。

「赤也……すまん、ちょっといいか……」

真っ赤な顔をしながら情けない声でそう言った真田先輩に、「へいへい」と返して、俺は苦笑して側に近づいた。




結局、真田先輩が買ったのは、小さなペンダントだった。
たくさんの候補から少しずつ減らしていって、最終的に残った大人しめの小さなペンダント。
真田先輩は、「喜んでくれるだろうか」と最後まで言っていて、どこまで心配性なんだって思った。
ほんと、真田先輩もも、似たもの同士でお似合いだよ。
畜生、やってろってーの!!


ま、いいや。
俺もちゃんとにプレゼント買えたし。
(結局俺はあのヘビのぬいぐるみにお菓子のブーツをつけてやった)
明日は俺もとデートなんだよな!
よっしゃ、真田先輩たちに負けないくらいアツアツで楽しいデートにしてやんだからな!!
なあ、

クリスマス話「ding-dong」の隙間のお話です
この頃の真田が彼女へのプレゼントを選ぶというのは非常にハードルが高いのではないかと思うのですが、不慣れな事を一生懸命頑張る真田君を楽しんで書いた記憶があります。
非常に情けないですが……(笑)
おそらく、これ以後は真田も彼女へのプレゼントを選ぶコツも分かってきて、きっと、赤也に頼らずとも選べるようになったと思います。